涙のあとの笑顔
 最初はどうしてこんな目にあっているのかわからなかった。理由は私が貧相なくせに男子達と仲良くしているから。彼女はあらゆる手段を使った。
 私にいじめられたと周囲に言って、自分の味方を増やしたり、嘘泣きを披露したりした。男子達に誤解され、思惑通りにいじめの標的となってしまった。簡単に騙される男子達を嘲笑いながら、操り人形のように遊んでいた。何度男子達に本当のことを言っても、聞く耳を持ってくれなかった。
 家の中では母にいじめられ、外へ行けば、彼女達にいじめられ、居場所がなかった。悪口を叩かれ、追いまわされ、暴力を振るわれた。
 しばらくして満足したのか、彼女は実家へ戻って行った。彼らもそれにつられるようにどこか遠くへ行った。数年後、母はとうとう過労死した。
 誰も私を助けてくれなかった。
 今でもその怒りと悔しさがしっかりと残っている。
 結局、私は何もできないまま、痛みに耐えることしかできなかった。
 いじめた人達にも腹を立てているが、どうすることもできなかった自分にも腹を立てた。

「今まで誰にも知られることなんてなかったのに!」
「俺だって知られたくないことがあるよ。いくつもある」
「知られたくないこと?」
「そう、今よりもっと嫌われたらつらい。だから言いたくない」

 苦しそうにしているのが伝わった。

「フローラ、さっきも言ったけど、気持ちは変わらない」

 ケヴィンの細い指でゆっくりと背中をなぞられた。

「痛いよね?」
「痛くなんかない」
「俺達がもっと出会うのが早かったら、これを作らずに済んだのかな?」

 そんなことはわからない。

「どうなんだろうね」

 確かに変わっていたのかもしれないけど、もう過ぎたことだ。

「もうすぐ夜が明けるね。あと少し眠ろう?」

 眠気に襲われながら、名前を呼ぶと、私の唇を彼の唇で優しく触れた。
 もう涙は流れていなかった。
 次に目を開けると、朝になっていた。光が差し込んでいて眩しい。
 結局あの後寝ちゃっていたんだ。お腹が空いた。
 隣には無防備な表情で寝ているケヴィンがいる。少しでも移動しようとすれば、子どものように服の裾を掴んでくる。それを見て苦笑いを浮かべた。

「昨日、あんなことがあったとは思えないな」

 独り言を言って、横になろうとしたとき、誰かがドアをノックした。開けると、イーディがいた。

「おはようございます、フローラ様」
「おはよう、入って」
「失礼致します」
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