涙のあとの笑顔
 朝食を乗せたカートと一緒に入り、静かにドアを閉めた。
 イーディは私のベッドを占領しているケヴィンを見て、目つきが変わった。

「何なの、この男は・・・・・・」
「フローラ?」

 起きた?いや、寝言だった。

「食事は私達で食べましょう、フローラ」
「ケヴィンは?」
「ほっときましょう」

 イーディは冷めた表情でケヴィンを見下ろしていた。

「あの、ケヴィンって昨日、夕食を食べた?」
「いいえ、フローラと一緒に食べるからって断ったわ」

 それじゃあ、かなり空腹なんじゃないの?

「フローラ、ご飯を食べたい」

 ケヴィンは眠そうに目を擦っている。

「あら?起きたの?」
「眠い、あとでごろごろしよう?」
「ケヴィン、仕事でしょ?」

 まだ寝ぼけているのかな?この人。

「イーディ、早く準備して」
「少しは人の話を聞きなさいよ!」

 朝食を一緒に食べているとき、イーディが何度か心配そうに私を見た。

「フローラ、顔色が少しましにはなっているけど、無理は駄目よ?」
「うん、ありがとう。食欲はあるし、大丈夫だから」
「そうね」
「フローラ、俺がいないからって、知らないところへ行っちゃ駄目だからね?」
「あんたは保護者なの?」
「イーディ、何度も言っている、恋人」
「一方通行じゃない」

 こうしてやりとりをしていると、昨日のことが夢のように感じられる。
 不思議に思うくらい穏やかな空気が流れている。

「今日は部屋でのんびりする?」
「ううん、図書館へ行こうかな」
「私もあとから行くわ。今から仕事の手伝いを頼まれているの」

 朝早くに来たので、人は少なかった。今日は文学のところへ行き、本を数冊持って、机に向かった。

「アンディさん?」

 朝はあまり見かけないアンディさんが階段を上ってきた。

「この時間に会うのは珍しいですね」
「そうだな。昨日、あれからどうなった?」
「ケヴィンは怒っていましたね」
「そのようだな。だって・・・・・・」

 私の髪を上げると、紅い印がついていた。
 こんなところにまでつけていたんだ。

「あいつが仕事で良かったな。休みなら気まずいだろう」
「本当に。本人はいつもと変わらない様子でした」
「今朝、あいつとすれ違ったときにすごい形相をしていた。笑えるな」

 あの、笑い事ではないと思いますよ?それを笑えるって、とんでもない人だな。

「ケヴィンは何か言っていました?」
「何も」

 会話が途切れたので、本を読み始めると、アンディさんは私が選んだ本から一冊手に取った。

「一言何か言ってください」
「借りるぞ」
「はい」
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