涙のあとの笑顔
 お嬢ちゃんがここに来て半年になった頃に俺はギターを演奏するようになっていた。子ども達に弾くように強請られ、弾きやすいところへ移動していたときにぶつかった。

「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「手が・・・・・・」

 俺の手は少しだけ切って血が出ていた。大したことない。

「これくらい平気です」
「駄目ですよ!」

 白魔法で傷が回復した。それを見た子ども達はすごいと大騒ぎをしていた。

「本当にすみませんでした。では」

 お嬢ちゃんを見かけたことは何度もあったけど、会話をしたのはこのときが初めてだった。
 外見は少し大人びていたが、中身は変わっていなかった。
 それに笑顔だった。あんな風に笑うようになったのはおそらくここの人間の影響を受けたからだろうな。
 お嬢ちゃんにとって大きな変化だった。

「変装してここにいるって、不法侵入でしょ?」
「そんなことない、随分前に迷子になっている子どもを送り届けたとき、変装をしていないこの姿で来た。それからその子どもや親と仲良くなって、今となってはこの姿でも怪しまれない。むしろ歓迎してくれるからな」
「ずっと変装していたのは何で?」
「自分がどこまでできるか試したかったからだ」
「その人達には自分は何者だって言っているの?」
「あちこちを旅している者だと言っている。何にも縛られていなくていいだろう?」

 彼は昔から自由を好んでいた。

「自由を好むところも相変わらずだね」
「そりゃあな。質問は終わりか?」
「うん」
「じゃあ次は何をしようか?」
「そろそろ寝るから」

 あなたは出て行ってください。

「昔みたいに添い寝してくれ」
「誰もそんなことを要求していない!」

 昔は寝るときに寒いからと言って、私を抱き枕にして寝ていた。嫌だと言っていたが、それも次第に慣れていった。

「よく腹を出していたな」
「ほんの数回だけよ」
「肌が真っ白だったな」
「そんなことは忘れて!」

 もう、からかって遊ぶところも全然変化がない。むしろパワーアップしていない!?

「夜に泣いていたな」
「それも重要じゃないよ」
「涙、甘かったな。しょっぱいはずなんだけど、あんたのは甘かった。今はどうなんだ?」
「知らないよ、そんなの」
「だったら泣かせるか」
< 79 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop