涙のあとの笑顔
夜と得意技
「あの頃より綺麗になったな」
「そうかな?」

 あんまり変わっていないと自分では思う。それに真面目な顔で言われると、どう返したらいいのかわからなくなる。

「それに強くなっている」
「そんなことないよ。怪我をしたから」

 助けてもらわなかったらもっとひどい怪我をしたかもしれない。それに被害者も増えていた可能性だってあった。

「街を襲ってきた人達は何者だったの?」

 あの後はケヴィンに何度も教えてと頼んだが、危険なところに首を突っ込ませないようにしているのか、教えてくれなかった。
 教えてくれたことは軽傷を負った人達が数人いたということくらいだった。すぐに手当てをしてもらったので、大事にはいたらなかったのが幸いだった。

「あいつらが王都を狙ったのは混乱している隙に金目のものを盗むことが目的だったみたいだぜ」
「金目のもの?」

 騒ぎを起こしていたところは東区画。東区画に金になるものなんてあったかな?

「本当の狙いは西区画だ」
「西区画?」
「あそこに住んでいる夫婦がいるだろう?かなり値打ちのある指輪に目をつけていたようだ。西区画は他の区画より住んでいる奴らが少ないから、すぐにばれると思ったらしい」
「だから人通りが激しい東区画を狙って、騎士様達を寄せ集めようとしたのね。でも待って、そうなると敵は西区画にもいたってことよね?」

 フローラの質問に、彼は頷いて肯定した。

「だけどお嬢ちゃんが魔獣を退治していったから焦って他の仲間を呼んだから、このとき敵は全て東区画にいたことになる」
「それじゃあ狙われた夫婦は?」
「ロープで縛られたようだが、怪我もなかったし、指輪にも手をつけられていなかった」

 無事だとわかり、安堵の溜息を吐いた。

「あの、何でそこまで知っているの?情報を持ち過ぎじゃない?」
「さっきも言っただろう?俺は変装だってできる。誰も疑うことなんてしなかった」
「多くの人になることができるのなら、もっと前から城にいることもできるってことだよね?」
「そうしている。まさか俺がここを行き来することができるとは最初は思わなかったぜ」
「何に変装しているの?」
「内緒だ」
「変装した姿で私と話したことはある?」
「あるな。一度だけ」
< 78 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop