涙のあとの笑顔
 だめ!何を話しても悪い方向に行ってしまうよ。
 そのときノックの音が響いた。私達は食べることを中断し、ドアを見つめた。
 開けてみると、一人の使用人が立っていた。

「おはようございます。何でしょうか?」
「朝早くにすみません。おはようございます。フローラ様、昨日に城内で探していらっしゃったのはこれではないですか?」
「それ!」

 イーディに買ってもらったネックレスを使用人が手にしていた。
 けれどおかしい。昨日は城の中にいたけど探していない。きちんと身につけていたから。
 不審に思い、使用人をじっと見ていると、笑みを浮かべた。
 それを目にした途端、目の前の人物がレナードだとわかったので、話を合わせた。

「どこにあったのですか?」
「階段の下に落ちていました」
「ありがとうございます!」
「いえ、食事中にすみませんでした」
「とんでもないです!わざわざ届けてくださって!」
「では私はこれで失礼します」

 彼は最後まで使用人らしく振るまい、廊下を歩いて行った。私はネックレスを首にかけてから席に戻った。

「それを届けに来たの?」
「うん、なくしちゃっていたから探していたの。ごめん、イーディ」
「どうして謝るの?」
「せっかく買ってくれたものなのになくしてしまったから」

 それこそ嘘。本当はこんな嘘を何食わぬ顔で吐いているから。

「もう、何を言っているのよ。見つかったのだし、いいじゃない」
「だから様子がおかしかったんだね。これではっきりした」

 疑いもなく信じてくれたので、余計に胸が痛み、顔を歪めた。

「フローラ?」

 ケヴィンが怪訝そうな顔をしていた。私は誤魔化すように話題を変えた。

「スープ、冷めちゃったかな?」
「大丈夫。まだ温かいわ」

 イーディが器に触れ、温度を確認してくれた。スープを飲むと、いつもの美味しさが口の中に広がり、小さく微笑んだ。
 さっきまでは味が全然わからなかったけど、今はわかる。
 今日は空が曇っているので、午後まで散歩に行こうとイーディを誘い、城を歩き回っていた。

「ケヴィン、何をしているのかな?」
「仕事に行かれましたよ?フローラ様」
「私、口に出していた?」
「えぇ。はっきりと」

 くすくすと笑っているイーディに笑わないでとお願いをすると、笑いを堪えてくれた。
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