甘え下手
「少し早いけど片づけようか」


展示会が終わる30分前に櫻井室長がそんなことを言い出したから、ビックリした。

勝手に気まずい思いをした私は、必要最低限の会話しかしていなかったから、櫻井室長もこの場を居心地悪く感じたのかもしれない。


部下失格な私。


目標はクリアしたし、夜にはI社の課長との会食が控えている。

上司に報告できそうな成果はもう十分にあると言える。


だけど私は仕事に私情を持ち込んだことが嫌だった。


「いえ、私はもう少し残りますから。櫻井室長は上がってください」


櫻井室長の顔は見ずに、説明用のパンフレットに目を落としながら事務的に答えた。

斜め後ろでふうというため息が聞こえる。


やっぱりダメか。

櫻井室長は部下を残して先に帰ったりしないよね。


チーフや参田さんには通じる手も、櫻井室長には通じない。
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