甘え下手
「余裕のあるときは融通利かせたっていいんだよ? 力抜くことも覚えること」


私の手からパンフレットの束を抜き去ると、櫻井室長はにっこりと笑って見せた。

気まずい思いなんて何もなかったかのように。


それでちょっとだけホッとした。


「櫻井室長はもっと真面目な人かと思ってました」

「俺は十分真面目な部類に入るぞ。百瀬が真面目すぎるだけ。もっと上手いことやってかないと損するぞ」


櫻井室長の言葉に私は笑っただけで返事はしなかった。

代わりに立ち上がって片づけを始める。


『その損な性格直さないと』

そう言っていたのは阿比留さんだった。


櫻井室長にもそう思われていたんだなあって思うと、自分で自分に呆れる。


あらかた片づけが終わると、櫻井室長が「約束の時間までまだ間があるから一旦ホテルにチェックインしよう」と提案してきた。

一日中、接客していて疲れているからその提案はありがたかった。


もしかしたら櫻井室長はそのまま接待に出かけるのは、精神的疲労が大きいと判断して早めに展示会を切り上げてくれたのかもしれない。

つくづく気のつく人だと感心しながら、一緒にタクシーに乗った。
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