甘え下手
そのやり取りを遠くに聞きながら、胸に手を当てて必死に動悸を抑えた。

落ち着け。落ち着け。


「……そんなつもりじゃないですけど、安易に手を出すのはやめてくださいね?」

『人聞き悪いこと言うなよ。俺相当信用ねーな』

「阿比留さんのどこを見たら信用できるって言うんですかー」


我慢していた泪が瞳からひと粒こぼれ落ちたけれど、私は茶化して笑った。


『コイツは俺に遊ばれるようなタマじゃないから心配無用』

「阿比留さんはさーちゃんのこと、まだよく分かってないんですよ。見た目やイメージに騙されないでください。ホントは純情な子なんです」

『純情ねえ……。ま、いいや。比奈子ちゃんは自分の純情の捨て方で悩んだ方がいいんじゃねえ。さっさと室長の部屋行ってくれば?』

「そうですね~。考えておきます」

『んなこと言って寝るつもりだろ』


軽口をたたき合いながら、お互い笑った。

ちっとも、全然、楽しくなんかないのに。
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