甘え下手
「ごめんなさい。疲れてるからもう切りますね」

『比奈子ちゃん? 何か……』


会話の途中で親指が勝手に、終話ボタンを押してしまった。

同時に堰を切ったように次々と溢れてくる、涙。


「ふ……、うぅ……っ」


スマホが手から滑り落ちてカーペッドの上に転がる。

追いかけるように自分の身も崩れ落ちた。


きっと阿比留さんは「何かあったのか」って聞こうとしてくれたんだと思う。

だけど私には何も言えなかった。


いつからかしてきたはずの失恋の覚悟は、あまりにも役立たずで。


失恋は怒涛の雪崩のように、あっという間に飲み込まれて流される衝撃だと思ってた。

だけど実際は大雪原にたったひとり残されたような、虚しさと孤独だった。


私はその夜、六年間片想いをしてきた人が眠る隣の部屋で、布団をかぶり声を殺して、クゥクゥと泣いた。
< 160 / 443 >

この作品をシェア

pagetop