甘え下手
彼女のためにできること
俺と沙綾を二人きりにしても、俺が手を出さないという確信があるからだろう。

沙綾は沙綾で、「私もそろそろ帰んないと、マジでお兄ちゃんに叱られるー」と腕時計を眺めていた。


「あのお兄ちゃんね、優しそうじゃん」

「え? あー、前に阿比留さん、お姉ちゃんのこと送ってきてましたよね。お兄ちゃん外面良い人ですからー。怒ったらめちゃ怖いですよ!」


そんなことを言いながらも、兄の言いつけを守って帰ろうとするあたり、沙綾はよくしつけられた良い子なんだろうと思った。


「なあ、比奈子ちゃんに電話してみようか」

「えっ、お姉ちゃんに? なんて?」

「あの子のことだから、どうせ二人っきりのチャンスもモノにできずにいるんだろ? ハッパかけてやろうぜ」


急にそう言い出したのは、百瀬比奈子にイライラしていたせいもあると思う。

だけどそれに反して、背中を押してやりたいと思う気持ちもあることは事実だった。


似たもの同士のあの子だけでもせめて笑顔に。


ワクワクした様子でこちらを見ている沙綾を横目に、俺は百瀬比奈子の番号をコールした。
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