甘え下手
俺の言葉に涙腺が崩壊したらしい百瀬比奈子は、とうとう嗚咽をもらして初めて俺の前で本格的に泣き始めた。


女の涙なんて鬱陶しいだけだと思ってた。

泣くことは卑怯な手段だとも。


それなのに今の俺は、百瀬比奈子が自分の前で泣いていることに、一種の安堵感を覚えていた。

そしてやっぱり彼女を抱きしめてやりたいとも。


マンションには帰らずに、首都高に乗った。

泣いてる彼女に夜景なんて見えちゃいないだろうが、車の中の方が思う存分泣けるだろうと思い、そのまま少しドライブをして、埠頭に車を止めた。


目の前にはレインボーブリッジと海。

他には何もないから、周りに車もいなくて落ち着ける場所だ。


たまに一人でドライブしたいときにはここへ来ていた。

その頃になるとようやく百瀬比奈子の涙も出尽くしたのか、ハンカチで鼻を押さえながら彼女は目の前に広がる夜景を見ていた。


「阿比留さん……」

「ん?」

「私、失恋しちゃったんです……」
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