甘え下手
「だけど嫌いじゃないよ、比奈子ちゃん」

「……え」

「その損な性格。周りばっかり気にして甘え下手なところ。嫌いじゃない」

「……」


ゆるく微笑む阿比留さんは緊張なんて欠片もしていないのに、言われた私の方があっという間に心拍数が上がっていく。

悪魔のような妖艶な微笑みに取り殺されそう。


「アルコール、飲んでないのに赤くなったな」

「……これは阿比留さんが」

「俺のせい?」

「……」

「俺にドキドキしてるの? 比奈子ちゃん」


優しいのにどこか冷めてるようにも見える瞳が。

艶のある低い声が。


私のハートを縛り上げる。

キュウキュウ悲鳴を上げている。


頭の片隅でサイレンが鳴っている。

この人は危険だからこれ以上近づいちゃいけないと。


だけど囚われた心はそこから動くことを許してはくれなくて、阿比留さんがゆっくりとした動作でソファから立ち上がり、目の前までくる一連の動作を私はただじっと見ていた。
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