甘え下手
「ビックリ? 何が?」

「阿比留さんにこんなこと言われるなんて……」


私が目をパチパチさせてつぶやくと、阿比留さんはふっと苦笑して私の額を軽く突いた。


「鈍感すぎんだよ。今までどんだけ男逃がしてきたわけ?」

「……阿比留さんが特殊なんだと思います」


阿比留さんに言われてちょっと過去を顧みたけれど、男の人の影なんてこれっぽっちも思い出せなかった。


「比奈子ちゃんは?」

「え?」

「俺に流されただけ? 男にちやほやされて舞い上がっちゃった?」

「……違います」


距離を縮めても阿比留さんの意地悪な性格は直ってないらしい。


「そういや比奈子ちゃんは言ってないよな」

「……何をですか?」

「俺にしつこいぐらい『私のことどう思ってるのー』って訊いといて、自分は言わないのってズルくねえ?」

「……」


その通りだと言われて気づいて、私は何も言えなくなった。
< 207 / 443 >

この作品をシェア

pagetop