甘え下手
私が阿比留さんをどう思っているかは、言葉にするには非常にあやふやで輪郭がぼやけている。

おそらく阿比留さんもそうだったのかなと思うと、無理やり言わせた自分を反省した。


それでも阿比留さんは伝えてくれたのだから、自分だけ胸のうちにしまっておいては駄目だと思った。


「……気になります」

「何が?」

「阿比留さんのこと。阿比留さんが社内にいれば目で追いかけてるし、イライラしてればどうしたんだろうって心配になるし」


眠れないだなんて聞いたら、そりゃもう心配になっちゃうし。


「俺のこと好きなの?」


ぶっと吹きそうになるセリフを真顔でサラッと言えちゃう阿比留さん。

しかもその表情はいつもの意地悪なものではなくて、心底不思議に思って訊いてるって感じだった。


「私……、昨日失恋したばっかなんですけど」

「それさっき聞いた」

「ならそれ訊くのって……おかしくないですか?」


私が困った顔をすると、阿比留さんは軽く笑って「ま、いいか」と許してくれた。
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