甘え下手
それから二人で並んで飲み直した。

阿比留さんはビールを、私はノンアルコールの梅酒を。


飲みながら二人で色んな話をした。

好きな映画や音楽の話だったり、学生時代の話だったり。


なんの意味も持たないような会話が今は心地いい。

阿比留さんのことが少しずつ分かっていって、私の中に積もってゆく。


それに比例して阿比留さんに惹かれていくのがハッキリと分かった。

自覚と共に芽生える不安と戸惑い、そして膨らむ温かい気持ち。


その感情をなんというのか薄々は分かっていたけれど、今はそれに名前をつけたくないと思った。

そして穏やかな時間の中、私が阿比留さんの隣で失恋の涙を流すことはもうなかった。


「そろそろ寝る?」

「えっ!?」

「何その過剰反応。明日会社だろ」


当然のように言われて、私は固まったままコクコクとうなずいてみせた。
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