甘え下手
確かにメイク道具一式も、部屋着も全部入っている。

全くそんなつもりなかったのに計ったかのようなタイミングに自分でも感心してしまった。


「風呂入るだろ?」

「……」


このまま帰るというのも変な気がして、結局促されるままにお風呂を借りてしまった。

そうして順番にお風呂に入った頃にはすっかり日付も変わっていい時間で、私はお兄ちゃんに友達の家に泊まることをメールで伝えておいた。


「寝室こっち」

「あの……」

「何?」

「お布団もうひと組とか……」

「ないよ」

「参田さんが泊まったりとかは……」

「仁はいつもそこのソファーで寝てる」


リビングに置いてあるブラウンの革のソファを指されて、思わずそっちに向かいそうになったところをガッチリ捕獲される。


「まさかそんなところで寝るつもりじゃないよな、比奈子ちゃんは」

「……はい」


有無を言わせない圧力に思わずうなずいてしまった。
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