甘え下手
阿比留さんがちっとも起きる気配を見せないから好き放題にふにふにと顔を触っていると、それが鬱陶しかったのかようやく「ん……」と阿比留さんがくぐもった声を発した。

阿比留さんの目がパッチリ開いたら「おはようございます」って言うつもりだった。


実はちょっとそういうシチュエーションに憧れていた。

頬を染めて朝の挨拶を交わす恋人同士ってヤツに。


だけど阿比留さんは意識を覚醒させるよりも前にとんでもない行動に出てきた。

私の存在を確認するように回した手に力を入れたかと思うと、片方の手が後頭部に回って思いきり口づけてきた。


「んんっ!」


突然のことに驚いて抗議の声を上げているのに、無意識なのか阿比留さんは私に昨日よりもずっと濃厚なキスを施してきた。

いきなりのことに心臓は百メートルダッシュをかましてどっかに飛んでちゃったんじゃないかってほどにビックリしてるし、その間も口づけは終わることはなくて口の中をくすぐるように撫でられる。


寝ぼけているんだと気づいて、阿比留さんの胸をぐいぐい押すけれど、私を拘束する腕は力強さを増すだけだった。

するりとお尻を撫でられて、これはなんだかヤバいと状況を理解した。
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