甘え下手
「アレ……俺今なんかした?」

「……覚えてないんですか」


じろりと冷たい視線を向けると、阿比留さんは眉を寄せて考えるような仕草を見せた後、「あぁ」とつぶやいた。


「キスしただけだろ。なんで怒ってんの?」

「……私だって認識してませんでしたよね」


ズバリ指摘してやると阿比留さんの目がちょっと泳いだ。

阿比留さんの動揺した姿なんて貴重だ。


そんな阿比留さんを可愛いと思ってしまう私は、すでに相当ヤラれてるのかもしれない。


「んなことないだろ。比奈子ちゃん泊めたことぐらい覚えてるし」

「……ダメです」

「何が?」

「もう他の女の人を泊めたり、こんなことしちゃダメですからね」


キツい目で見ると阿比留さんは「お、おぉ」と少し勢いに圧倒されたようにうなずいた。


「阿比留さんが眠れない夜は私がそばにいますから」


宣言した後、恥ずかしくなってさっさとベッドを出ると洗面台のある脱衣所へ逃げ込んだ。
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