甘え下手
顔を洗って身支度を整えてからリビングへと出ると、阿比留さんがマグカップに入れたコーヒーを渡してくれる。


「悪いけど朝メシになりそうなものがない」

「阿比留さん朝は食べないんですか」

「時間なくてコーヒーだけ。こんな早く起きねーもん」

「お腹空きません?」

「朝のミーティング終わったら外回り行くから、そん時コンビニで買ったりするかな。比奈子は今日は社内?」

「社内……ですけど」

「何?」

「呼び方……、比奈子とか」

「何、不満? もう俺んだろ?」


ピーっとお湯を沸かしたヤカンの音がしそうな勢いで私の顔は真っ赤になった。

それを確認して阿比留さんが満足そうに口端を上げる。


もう会社に行かなくちゃならない、このタイミングでそんなことを言うなんて。

デビルさんはイタズラ好きらしい。


「誰かさん、毎晩私がそばにいるーとか告白してなかったっけ?」

「か、勝手に脚色しないでください」

「コンビニ寄って朝メシ買ってくのでいい?」
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