甘え下手
「まあ、昼は無理……だから、夜ならなんとかなるかな」

「はぁ」

「比奈子ちゃん定時?」

「多分……」

「じゃあ家で待ってな。迎え行ってやるよ」


昨日、ひと晩一緒に過ごしたばかりだというのに、こうして今日も約束をしてくれるのは私を心配してくれるんだろうか。

今から失恋相手と顔を合わせなければいけない私への気遣いなのかなと思った。


さらに阿比留さんはスタスタと私に向かって歩いてくると、自分の胸ポケットに挿してあったボールペンを抜くと、私のスーツの胸ポケットに挿した。


「阿比留さん……?」

「これやるよ。御守り」

「……阿比留さんは優しすぎます」


未だにどうして私にこんなに優しくしてくれるんだろうと不思議に思うくらいに。


胸がじーんとして朝から泣きそうになってしまった。

私は人前で泣いたりなんかしないのに。


阿比留さんのそばにいると涙腺が緩んで困る。


「……困ったときは三回撫でます」
< 220 / 443 >

この作品をシェア

pagetop