甘え下手
密かな儀式的おまじないを参田さんにばっちり見られていたことで動揺している私に、参田さんは「うんボールペンなのは見て分かるんだけどさ」と遠慮のない視線を胸元に投げかけてくる。

つられて目線を下げると、よく見ればそのボールペンは普段使ってる会社の備品とは違って、光沢のある黒いボディはどう見ても高級品だった。


「な、何か?」

「……いや、なんでも」


そう言いながらも参田さんは相変わらずボールペンをガン見で、人の胸をそんなジロジロ見ないでくださいと突っ込みたくなるぐらいだった。


「ふぅん、そっか」

「……何ですか?」

「いや、べつに」


そう言って私から目線を外してパソコンに戻した参田さんの顔には、明らかに先ほどまではなかった笑みが浮かんでいる。

私は内心ダラダラを冷や汗をかいていた。


バレた、バレた気がする!

会って五分で昨日の私の何もかもがバレた気がするぅぅぅ!!


ただの被害妄想かもしれないのに、恥ずかしくていたたまれなくて、私はついに逃げるように席を立ってしまった。

サタンさんには神通力でもあるのかもしれない。


私は足早にフロアを抜けると、自販機のある休憩コーナーへと向かった。
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