甘え下手
櫻井室長のデスクがあるところで私達は自然に別れた。

そのまま自席に戻ろうとする私に、櫻井室長が「百瀬」と声をかける。


「眼鏡もいいけど、やっぱりコンタクトの方が百瀬はいいかな」

「え? あ、そうですよね。眼鏡似合わなくて」


こめかみをかきながらそう言うと櫻井室長は「そんなことないよ。似合ってたけどな」と優しげな笑みを返してくれた。

それは私がいつも見ていた時と同じもの。


また同じ微笑みを向けてくれたことが嬉しくて、胸がつまる。

よかった、櫻井室長と普通に話せた。


櫻井室長に、目が腫れていない状態の元気な私を見せることができた。

そのことがすごく嬉しかった。


デスクに戻ると参田さんが報告書を前にうんうん唸っている。

私が戻ってきたことに気づいてこちらへ顔を向ける。


鼻の下にボールペンを挟んで口を尖らせている。

子どもか、と心の中で突っ込んだ。
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