甘え下手
「いいのよ。お客さんは座ってて?」


言い方は柔らかいけれど、一瞬お母様の顔が歪むのを私は見逃さなかった。

よく知りもしない他人をキッチンに入れたくないって気持ちが、まんま表情に出ていた。


そっか、そう思う人もいるよね。


だから私は大人しく阿比留さんに促されるままにヨーロッパ調の花柄模様のソファに腰を下ろしてしまった。


阿比留さんのお母さん、ちょっと怖いかも。


そう思ってしまったのが第一印象。

いやいや緊張のせいでそう見えてしまっただけかもしれないと、自分を戒めていると優子さんが紅茶を淹れたトレイを運んできてくれた。


さっきは親しげな雰囲気だった優子さんまで、私の緊張が伝染したかのように一言も話さない。

ただ淡々とお茶を用意し、「どうぞ」とまるでどこかの秘書さんかのように丁寧にお茶を出してくれる。


「あ、ありがとうございます……」


目の前には私と阿比留さん二人分のティーカップ。

優子さんは飲まないのかなと不思議に思う。


だって今も座る様子もなく私達の傍らに立ったままだ。

いつもの阿比留さんだったら「座れば」ぐらい言いそうなものなのに、まるで優子さんがそこにいないかのようにそっちを見ることすらしない。
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