甘え下手
「え……?」

「いいから」


何が? と問いたかったけれど、阿比留さんの表情が真剣なものだったから、握られた手に込められた力が思いのほか強かったから、私は口を開くタイミングを失った。

立ち上がるのを止めたのにほどかれる気配がない阿比留さんの手。


それは阿比留さんのお父様とお兄さんがリビングへと入ってきてもそのままで、私は目を泳がせながら無理やりその手を振り切って、挨拶をする為に立ち上がった。


阿比留さんによく似た切れ長の瞳が印象的なロマンスグレーのお父さん。

お兄さんもまた阿比留さんによく似ていたけれど、フレームレスの眼鏡のせいか、阿比留さんよりもシャープな印象だ。


阿比留さん本人の印象を一言で表すならば『クール』、これに尽きると思う。

二人はその阿比留さんに似ているんだから、当然クール。


男性陣はクール……というか全体的に無口。

皆、無口。


部屋の温度が2、3℃下がったんじゃないだろうか……。
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