甘え下手
ただでさえ甘えるなんてできないのに、沙綾の前では姉のプライドが邪魔して余計にそんな自分を見せられない。


「これからどうするー? 阿比留さん家でも寄ってく?」

「なんでお前が仕切ってんだよ」

「じゃあ、お姉ちゃん連れて帰りまーす」


やっぱり沙綾と阿比留さんって結構気が合ってるんじゃないだろうか。

なんて考えてしんみりしていた時だったから、反応が遅れた。


「帰んの?」

「えっ?」


普通に聞いてくる阿比留さん。

妹の前で「帰りたくないです……」なんて言えるような猛者じゃない。


第一、帰らないという選択をすればそれは必然的に沙綾と阿比留さんの時間を増やすだけなのだ。


「かえ……ろうかな……」


だけど阿比留さんはどうなんだろう。

一人で眠れない夜を過ごしてはいないかな。


私が素直になれない分、阿比留さんとの時間は減っていって、それで阿比留さんの孤独な時間が増えていくのかな。

そう思うとなかなか進めない水中を歩くようなもどかしさと焦りが生まれる。
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