甘え下手
「正面から堂々と入りゃいいんだろ? やられたらやり返すし、俺」


不敵な笑みを浮かべられて一瞬、お兄ちゃんと阿比留さんの乱闘シーンを思い浮かべてしまった。

お兄ちゃん柔道やってたけど細身だし、案外阿比留さんの方が強かったりして。


阿比留さんも筋肉質って感じじゃないけど脱いだら案外ガッシリしてるのかなあ。

なんてこの間抱きしめられた感触を思い出して、一人で照れてる間に沙綾が阿比留さんの腕に抱きついて甘えていた。


「やー、お兄ちゃんを恐れないなんて阿比留さん素敵すぎる! やっぱり絶対欲しい~」

「あー、懐くな。そんなん格闘技でもやってるヤツ探しゃいいんじゃねえの」


沙綾の腕から自分の腕を引き抜こうとする阿比留さんに、沙綾が食い下がる。


「阿比留さん冷たーい。前は自分から抱きしめてくれたくせに~」

「え」


瞬間これは誰の声だってくらいに低い声が出て、阿比留さんがビックリしたように振り返った。

目が合った一瞬、瞳の中に揺らぎが見えて、沙綾の言ってることが真実なんだと私に確信させた。


身体中を支配するのは、スーっと血の気が引く感覚。
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