甘え下手
自分ががもう少し可愛かったら……私がそう思う実像がさーちゃんそのものだから、怖いんだよ。


「阿比留さんはそんな人じゃないよ」

「阿比留さんお姉ちゃんに夢だけ見せて、その責任はどう取るわけ? 阿比留さんがお姉ちゃんのこと泣かさないなんてできるの?」


阿比留さんは困ったような顔をして、すぐには答えなかった。

だからやっぱり私は恋愛そのものに夢を見過ぎているのかもしれない。


「沙綾だったら泣かねえの?」

「バーカ、泣くに決まってんじゃん!」

「泣くって分かってて俺がいいの? 沙綾ドMだな」

「で、どうするー? 阿比留さんが家に来るんだっけ?」

「……今日はやめとこう」


そう言ったのは私だった。

おそらく今日一番可愛くない態度で。


「あーあ、阿比留さん嫌われちゃったね」


沙綾が冗談めかしてポンポンと阿比留さんの背中をたたく。

本当は嫌いなんかじゃないし、こんな態度取って嫌われちゃったらどうしようって思ってるのに、私はその冗談に乗ってあげることもできなかった。
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