甘え下手
「比奈子?」


私の態度がおかしいことに気づいた阿比留さんが初めて心配そうな声を出す。

きっと阿比留さんの中じゃたいしたことないできごとだったに違いない。


「今日はさーちゃんと帰ります」

「ちょっと待て。怒ってんのか?」

「……帰ります」


見れば分かるじゃん! とでも言いたげな態度で私は答えた。

相当ぶすっとしているはず。


だけど妹の前で口論なんてしたくない。

当の沙綾は面白いことになってきたとでも言いたげな顔でわくわくと事の成り行きを見守っている。


「怒ってんだろ?」

「話ならさーちゃんがいない時に聞きます。それじゃっ」


そう言い捨てる沙綾の腕を引っ掴んで、私は阿比留さんを置いてさっさと歩きだした。

こんなの沙綾の思うツボだと思うとまた悔しくて、頭から湯気が出そうだった。


沙綾は隣で「お姉ちゃんでも怒るんだね~」と呑気なセリフを吐いていた。
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