甘え下手
「いーじゃん。仕事終わってんだし。秘密のオフィスラブって感じで面白くね?」

「……ドキドキしすぎて心臓に悪いです……」


触れられて嬉しくないわけない、だけどどうしても後ろを振り返って人がいないことを確認してしまう。


「だけどさ、プライベートでも触れない。会社でも触れない。じゃどこで比奈子を補給したらいいわけ?」


『比奈子を補給』に反応してグングン心拍数が上がって頬が熱くなる。

私はコーヒーをテーブルに置くと、赤くなっているであろう頬を隠すように両手で覆った。


「……阿比留さん、ズルいです。私怒ってたのにそんな風に喜ばせるようなこと言って……」

「喜んでんの? 可愛いね、比奈子ちゃん」

「悪い男に騙されそう、私……」

「その悪い男ってもしかして俺?」


プッと阿比留さんが笑って私の髪から指を離した。


「阿比留さんって自分が悪く言われても否定しないですよね」

「まあ事実だから?」

「私は阿比留さんの口から聞きたいです……」
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