甘え下手
「内緒って……。え?」

「櫻井室長。だから俺をリビングに通したくないんだろ?」

「ち、ちが」


『違います』という言葉を最後まで言わせずに、もう一度強引にキスをした。

言いたいことがあるからか、身じろぎをしてキスから逃れようとする彼女。


俺はきっと彼女が応えてくれることで、彼女の愛情を測っているのかもしれない。


「この家でいつも室長に手料理振る舞ってるんだろ?」

「……だってそれは」

「他の男に食わせた料理の残りを俺に食わせるんだ?」

「……阿比留さん」


比奈子はハッとしたように目を見開いた後、シュンとした表情をした。

俺がこんなに心が狭い男だとは思わなかったらしい。


俺も思わなかったけど。


「それとも俺を練習台にして、本番は室長、だっけ?」


自嘲的な笑みを浮かべながら、酷いセリフを吐いた。

出会った頃は確かにそうだったけれど、今がそうだと思ってるわけじゃないのに。
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