甘え下手
「さーちゃん……。聞いてたの?」

「聞こえちゃっただけ。そんで他の女のトコ行ったの? サイテーじゃん。阿比留翔馬」

「そっか……。そっかぁ」


阿比留さんは他の女の人のところ行っちゃったんだ。

そういうことなんだ?


「……私、フラれちゃった?」

「さあ。知らないけど私だったらあんなの言う男はこっちから願い下げ」

「願い下げ……」

「バカにしてんじゃん。自分の彼女に向かって『強い』だと? で、他の女は『弱い』から放っておけないだって? バカじゃないの?」


バカを連発した沙綾は同調しない私に業を煮やしたのか、「もうこっちからフってやったら」と捨てゼリフを残して自分の部屋へ行ってしまった。


さーちゃんは知らない。

優子さんが危険な状態だっていうことを。


生死が関わったから阿比留さんは優子さんの元へ行ったんであって、べつに私よりも優子さんを想ってるって証拠にはならなくて……。


「アレ?」


なんでだろ。

それなのになんで勝手に涙が出るんだろう。
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