甘え下手
一週間前と同じ女将さんが入口で迎えてくれたけれど、もちろん「この間はどうもー」なんて無粋なことは口にしない。

なのに私は勝手にイケナイことしてる気分で、下を向いて目を合わせることができなかった。


「今日は比奈子ちゃんを初めて連れてきた記念で、特別な? 会社の子らには内緒だぞ」


そう言って櫻井室長は私と阿比留さんが食べたのよりも高いコースを頼んでくれた。

私にはメニューを見せてくれなかったけれど、バッチリ予習済みだったりする。


「会社の経費だったら、Bコースあたりが無難かなー」


会社の接待に使うと思っている櫻井室長は、相変わらず親身になって考えてくれている。

結果的に嘘をついたことになってしまい、申し訳なくて縮こまってしまう。


「今日さ、いつもと感じ違わないか?」

「え? そうですか? 普通ですよ?」

「なんか女の子って感じがする。って俺の中ではずっと高校生の比奈子ちゃんのままのイメージだったからかな」


そう言って微笑む櫻井室長に合わせて、小首を傾げて微笑んで見せた。


同じじゃない。

持ってる服の中で、会社にも着ていけそうで尚且つ、可愛い服を選ぶのに、昨日は一時間部屋の中でファッションショーしてた。
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