甘え下手
「男二人で焼肉ってのも侘しいねー。飲めないから余計に切ないわー」

「ぐちゃぐちゃうるせえな。お前が誘ったんだろうが」

「それはあれよ。お前いると女の子の食いつきが違うからさー。なのに女の子呼ばないとか、ないわー」


言う割にはバクバクとロースに食らいつく仁を呆れた目で眺めながら、運転手じゃない俺は生ビールを喉に通していた。


「自分だけ飲むとか……。お前は遠慮って単語を知らねえな」


恨めし気に見ている仁を無視して焼けた肉を拾いながら、そういえば今日が『鴨料理』の本番デーだったことに気づく。

さて、あの子はどれぐらい室長の気持ちを動かせたのか。


俺の見たトコ、全く女として意識されてないっぽかったから、あの子が動かなきゃ状況はいつまで経っても変わらないだろう。

それを本人が良しとしてしまっているから、悪循環は続く。


「そうだ。比奈子ちゃん呼ぼう! で妹ちゃんもつれて来てもらう算段!」

「無理だし。ヤメロ」


一世一代の大勝負の日に余計な茶々を入れてやるなよ。

そんな思いで何も知らない仁をけん制しておいた。
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