甘え下手
***


「あ、あれ。比奈子ちゃんじゃねえ?」


それなのに焼肉屋を出たところで、俺らは道路を挟んだ向こう側に、人ごみの中を歩いてくる彼女を発見してしまった。

周りよりもスローペースで歩く彼女は、後ろからどんどん人に抜かされて行く。


お世辞にも元気いっぱいな姿とは言い難い。

大体、こんな時間に一人でフラフラ歩いてること自体、今日の結果がいいものだったとは想像できない。


だから俺は、いそいそと声をかけようとした仁を慌てて制した。


「バカ。やめとけ」

「え? なんでよ」

「声なんかかけてどうすんだよ」

「決まってるじゃん。飲みに誘うのよ」

「お前は運転があるだろうが」

「代行でもなんでも手はあるって」


クソ。しつけえな。


「いいからやめとけって」

「だからなんでよ」

「アレ。どう見ても誘う雰囲気じゃねえだろ」
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