撮りとめた愛の色



子供達の言葉に彼はふと開けっ放しの縁側に視線を滑らせ、そしてぽつりと呟いた。


「ふむ、じゃあ今日は『新緑』と書いてみようか」

「しんりょく?」

「新たな緑という意味だよ。丁度今の時期に当てはまる。おいで、今手本を書いてみせよう」


首を傾げた子供達に柔らかく微笑みながら筆を手に取る彼はまるでそこだけ切り取った絵のように綺麗だ。

舞い込む風が彼の無造作に伸びた髪を攫えば、伏せられた目元がいつも以上にはっきりと見えて思わず視線がそっちへと向いていた。



「ほらこれが新緑と言う字だ。何でもいいから試しに書いたら見せにおいで」


『お手本』を手にした子供達は難しげにぐっと眉を寄せたりして一様の反応を見せる。今日は比較的小さい子達が多いから漢字はあまり書いたことがないのだろう。

そんなことを考えながらそっと彼の隣に腰を下ろした。もうすっかり火照っていた頬は熱を引き、いつも通りの私に戻っている。


「今日は少し、難しいのね」


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