撮りとめた愛の色



習字を習いに来るのは大抵が子供だし、私くらいの人となると子供についてきたりする人くらいしかいない。それでも片手で数える程度だ。


分かりにくい立地条件も関係してか、オギハラ教室に来る人は決して多くはない。

更に彼もテレビや雑誌に載る時のように身なりを整えることも少ないせいか、教えているのがまさか本物の荻原貴明だと知っている人は少なかった。


とはいえ本物だとか関係なしにボランティアで習字が教えて貰えるのだから、意外と人気は高いのだ。



子供達はそれぞれ好きな席につくと、自分のだったり彼から借りたりしながら書道具を長机の上に出していく。


「先生!今日は何て書く?」


墨独特の匂いが鼻を掠める。不思議と落ち着けて集中力が増すようなこの感じが私は結構好きだった。


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