撮りとめた愛の色
「でも私はこっちの方が見慣れてるからいいけど」
「ん?」
「先生が洋服だと…そうね、なんだか落ち着かないもの」
「それは洋服が似合わないと?」
「そうじゃなくて。見慣れないからって言うのもあるけれど、なんだか知らない人のようで」
寧ろ似合うから困る、とは言えるはずもない。見慣れていないからこそ、どこを見たらいいのか分からなくなるだなんて恥ずかしくて言える訳がないのだ。
和服も洋服も似合うだなんて、彼はどこまでも狡い。
「成る程。桔梗にそんな風に思われてしまうのは寂しいね」
障子戸に手をかけた彼は当たり前のように呟いて、それを横に引きながら奥へと進む。
思わず立ち止まりかけた私はなんとかそれを堪えて足を動かすけれど、さらりと言われたことに顔がどうしようもなく熱くなる。
気にも止めていない様子の彼は何となく思ったことを口にしただけだろう。それを私だけ意識してもしょうがないのだとは分かっているが速度を増して跳ねる鼓動はどうしようもない。
ともかく彼からいったん視線を外し、気を落ち着けようと深くゆっくり息を吸い込めば部屋に染み付いていた墨の残り香が鼻腔《びこう》をくすぐった。