撮りとめた愛の色
隅の一角で無造作に散らばった半紙は試し書きに使われたものだろう。同じ文字やひとつの部首が何度か書かれているのが見えた。
壁や棚には書き上げられたものが所々に掛けられたものもあれば賞状が飾られていたりする。
相変わらずここはいつ来ても凄いなと思わずにはいられない。また賞状が増えている、とひとり観察しながら部屋を見渡した。
「桔梗、こっちにおいで」
「、あ。はい」
彼が見せてくれた出展予定のそれは書道についてあまり詳しくはない私でも魅入られる。それが世にいう一種の才能というものなんだろうか。
彼はいつも「こんなものを見たがるのは桔梗くらいだ」なんて言う。
今まで私が書道というものに縁がなかったことも余計にそう思わせているらしい。
「そんなことないと思うけど」
「普通はわざわざ見ようとはしないさ。それに他のは目もくれないだろう?」
確かにそうかもしれない。でも、素敵なものは素敵だと思うのが普通だし、だから見たがるのは当たり前じゃないかと言えば変わった子だと彼は呆れたように笑った。
「目を惹くの、せんせの字って」
だから、私は惹かれるままに見たいと思うのだと、知っている。
「熱心なファンがいて嬉しいでしょう、せんせ?」
「そうだね、有難いことだ」
くつくつと喉を鳴らす彼に私もつられるように微笑む。