撮りとめた愛の色
ふと翳《かげ》りに気づいて顔を上げれば、見慣れた顔がすぐ目の前にあって。そのことを理解すると思わず固まっていた。
「桔梗?」
私の顔を覗き込む彼の睫毛の長さすらもはっきり分かるくらいの顔の近さに内心悲鳴を上げながら、声を絞り出すように口を動かした。
「っなん、です?」
「なに、急に借りてきた猫のように大人しくなったから、どうしたのかと思って」
「別に…何もないけれど」
言いながら、私はひたすら視線をさ迷わせていた。近すぎる距離にどこを見ればいいのか分からなくてだんだんと視線が下降していく。
だってこれは、まるで。
「そうかい?」
───キスが出来る距離だ。
「せーんせー!」
「来たよー!」
そんな私に救いの手を伸べるようにガタガタと音を立てて扉が開いたかと思えば、元気いっぱいな声がどこか古めかしいこの家に響き渡る。