週末シンデレラ


しばらく、なにか話すでもなくまったりとした時間を過ごし、ふと店内にある時計を見ると、あと十分で昼休みが終わろうとしていた。

「そろそろ会社に戻ろうか」

美穂に声をかけ、腰をあげようとしたとき。

「そういえば、総務課の加藤さんって、営業部の上川くんと付き合ってるらしいよ」

横の通路を歩く女性の声が聞こえた。

会話の内容にハッとして声のほうを見ると、同じフロアにある監理部の女性社員ふたりがいた。奥の席で、食事をしていたようだ。

ふたりはわたしたちがいることに気づいていないらしく、会話を続けている。

「上川くんって、新入社員の? 加藤さんが年下って意外だねぇ」
「でしょ? どうやら社員旅行で……」

そんな会話をしながら、お店を出て行ってしまった。

……な、なんで付き合っていることになってるの!?

しかも、一緒に旅行へ行っていない人が噂をしていた。武田さんが朝早く出勤していたのは、これを広めるためだったのかもしれない。

「詩織、大丈夫? あとで、ちゃんと否定しにいこうよ」
「うん……」

気遣ってくれる美穂にうなずくけど、それだけではどうにもならない気がする。彼女たちに否定しても、どこかで話は流れているかもしれないのだ。


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