宝物〜絆〜
「お疲れ様です、秀人先輩。来週もよろしくお願いします」

 語尾にハートマークでもついてそうな甘い声と、満面の笑みで見送る香奈。

「ああ。よろしく」

 秀人は、振り返りもせず右手をヒラヒラとさせて去って行った。

 そして休憩室に残ったのは、当然、香奈と私だけ。

 香奈は一気に態度を豹変させ、凍てつくような冷たい視線を向ける。

「絶対に許さない。駐車場で待ってるから。逃げても無駄」

 そう吐き捨てて、香奈も休憩室を後にした。

 予定通り――つっても単に最後に手を洗っただけだが――、自然な流れで最後まで休憩室に残る事が出来た私は、切り刻まれたエプロンを鞄にしまいながら考える。

 本当に一体、香奈の心境の変化は何なんだろう?

 考えても答えは分かるはずはなく、私は駐車場に行くべく店を出た。

 外は相変わらずの曇天。

 いや、むしろ朝よりもどす黒く重たい雲。重力に逆らえず今にも大きな雨粒を地上に落とそうと期を窺っているような、そんな雲が空一面に広がっている。

 初春の風はヒンヤリと冷たく、雨が降る前の、独特の匂いが鼻を掠める。

――そういや傘、持ってきてねえんだよな。

 などと思いながら、店の裏にある、第二駐車場に向かって歩き始めた。
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