BirthControl―女達の戦い―
もし、ただ居住区が変わるだけならば、手荷物なんかも許されるだろうに、それらは一切認められず、身一つで来るようにとのことだった。


青柳からの説明では、まず健康診断を行い、それが済んでからB棟への入居となると聞かされていたが、久枝はそれが真実でないことを知っている。


白い無機質な廊下にリノリウムの匂い……


初めて足を踏み入れたその場所は、初めてのような気がしなかった。


何層かのガラスのドアで阻まれたこちら側とあちら側は、意外にもあまり変わりがないのだと久枝は薄く笑った。


あれから――


翌年の春には施行されるだろうとされていた、B棟への移送年齢引き下げ案はなんなく可決され、12月で76歳になる久枝は一番手に選ばれた。


もちろん、事前に遥香から情報も得ていたし、自分が一番手になることも承知していたのだが、やはりこれから殺されるのがわかっているだけに、先程から足が震えている。


今までの高齢者たちは、知らぬが花だったんだろうと久枝は思う。


自分の運命を青柳に委ねていることなど気づかぬままに、B棟に居住区を移されるだけなのだと思っていたんだろうから……


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