BirthControl―女達の戦い―
麻生の娘であり、その地位を捨ててまで、この施設に潜り込んだ肝の座った遥香が何も企んでいないわけがないと思った。


けれどそれを確かめるには時間がなさすぎた。


すぐに久枝の移送当日になってしまったからである。


遥香への監視も増やしたが、特に動きはなかったようだ。


もしかすると、あの日襲われそうになって、諦めたのかもしれない。


高志は半ば本気でそう思っていた。












長い廊下を久枝を連れて歩いていく。


たまに振り返って様子を見るが、久枝に変わった様子はないように見えた。


ペタペタと久枝のスリッパの音だけが響く真っ白な空間。


これから彼女が無垢な状態になっていくのを暗示しているようでもあった。


“あの部屋”に連れて行くことが、自分の仕事だとわかってはいる。


けれどまだ若く元気な久枝を連れていくことに、高志の中に少しだけ躊躇いの色が見えた。


(……何を今更迷ってるんだ!

年齢引き下げを誰よりも望んでいたのはこの俺じゃないか!)


高志はそう自分を奮い立たせると、ようやく到着した部屋の前で立ち止まり、ゆっくりと振り返った。

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