BirthControl―女達の戦い―
(いい天気だな……)
ひんやりとした澄んだ空気が、暖房の効いた部屋から出たばかりの哲朗の肌を刺激する。
気持ちがいい朝だ。
まだ吐く息は白く、地面には霜が張っている。
大きく両腕を上げて伸びをすると、そのまま白衣のポケットに手を突っ込んだ。
病院の中庭にある花壇に目をやりながら、沈丁花の香りに鼻をひくつかせる。
もうすぐ春だと知らせるかのような甘い甘い香りに、哲朗は目を閉じてこの香りが大好きだった女性を思い出した。
(はるちゃん……
そっちはどうだい?
もう少し待っててくれ……
近いうちに会えるから……)
目を閉じたまま遠くに行ってしまった遥香に想いを馳せる。
しばらくそうしていただろうか?
キイキイと何かが近付いてくる音がする。
哲朗は目を開けてそちらを振り返ると、いつものように声をかけた。
「やあ、久枝さん
おはよう
今朝も気持ちがいいね?」
「ほんとだぁね?
おや、もう沈丁花が咲いたみたいだねぇ
いい香りだ……」
久枝もまた遥香が大好きだった花を覚えていたのだろう。