BirthControl―女達の戦い―
目を閉じて遥香を思い出すように、沈丁花の香りを楽しんでいる。


久枝はOldHomeでそうだったように、ここに来てからも毎朝、中庭の花壇に足を運ぶのが日課になっていた。


あの時、冷凍されていたにも関わらず、早めの処置のおかげで命をとりとめたのは、遥香のおかげといっても過言ではない。


後遺症が残り、歩けなくなって車椅子生活になった今でも、久枝は一度も恨み言を言うことなくリハビリに励んでいた。


若い遥香が亡くなって、老い先短い自分たちが生き残ってしまったことに、悔いがないわけじゃない。


けれど、せっかく遥香にもらった命を無駄にする気もなかった。


自分たちは今、精一杯生きている。


「今日はこれから施設に行く予定なんだよ」


哲朗がそう声をかけると、久枝はニッと笑って頷いた。


「梨央ちゃんによろしく言っとくれ?」


「わかった、伝えておきます」


哲朗はそう言いながら、病院に戻るためゆっくりと歩き始める。


それからふと思いついて、後ろを振り返り久枝に声をかけた。


「まだ寒いから、久枝さんも早く戻ってくださいね?」


「はいはい」


久枝は適当に返事をしながら、まだその場に留まって花を眺めていた。


< 307 / 406 >

この作品をシェア

pagetop