BirthControl―女達の戦い―
ナースステーションの前を横切ると、後ろからパタパタと走ってくる音がした。


「先生、今日はこれから施設ですよね?」


そう言ったのは妻の敬子だ。


看護士として私の右腕になってくれている。


「あぁ、悪いが一緒に同行してくれ」


「はい、わかりました」


病院ではきちんと立場をわきまえて決して夫に対して軽口は叩かない。


しっかりもので情に厚く、知的で聡明な妻は自分にはもったいないくらいだった。


そんな妻が私に対して怒りを露にしたのは、後にも先にもあの時だけだろう。


遥香の死んだあの日のあの事件。


国民に向けて発信された映像を、妻の敬子も見ていたのだ。


テレビに映るOldHomeの実態に驚愕したのは言うまでもないが、それ以上に妻を震撼させたのは、そこに夫の姿が映っていたことだろう。


危険な行為に加えて、それを知らされていなかったことへの不満が爆発してもおかしくはない。


哲朗は心配をかけたことを謝罪すると共に、妻を危険な目に合わせたくなかったのだと必死に説明した。


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