BirthControl―女達の戦い―
文雄は驚きを隠せなかった。


先ほど自分が考えていたことを見透かされたような芳枝の言葉に目を泳がせる。


妻は脅迫してるのだ。


もし子供たちに何かあれば、自分も夫の前から消えるのだと……


文雄は膝から崩れ落ちた。


妻を失うかもしれない恐怖と、子供たちを育てることを選択した場合の不安で、どうしていいのかわからなくなる。


(俺は……この年で働くのか?)


それとも家族を捨て一人で施設に入るんだろうか?


どちらの選択も文雄にとって辛いものだった。


そして……


文雄の出した答えはどちらの選択もNOということだけだった。


「うわぁぁぁぁっ!!」


突然、叫びだしながら文雄はキッチンへと向かった。


「あなたっ!!」


芳枝は文雄の異変に気付き、慌てて後を追ってくる。


キッチンに置いてある目的のものを掴んで、勢いよく腹に突き刺した。


「――ッ!」


声にならない声を出し、文雄は床に崩れ落ちた。


(これで楽になれる……

もう何も……考えなくていい……)


歪んだ視界に芳枝の泣きそうな顔が飛び込んできた。


遠くで文雄を呼ぶ妻の声が聞こえる。


意識を失う直前……


文雄は妻に看取られて死ねる幸せに酔いしれながら、死んでいくとは思えないほど穏やかな微笑みを浮かべていた。


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