BirthControl―女達の戦い―
あそこの施設医となってから、哲朗は敬子を一度も施設に同伴させたことはない。


なぜならあの独特の雰囲気を放つ施設に、敬子を連れていくのは憚られたからだ。


一般の人達は、自分が70歳になるか、働けずに生活が出来なくなるかしないと、あの施設には入ることは出来ない。


何も知らずに入るのだから、漠然とした不安はあっても、何とか覚悟は出来るだろう。


けれど最初からどんな場所なのかがわかってしまえば、それは漠然とした不安などではなく、確実な不安要素として恐怖を感じるかもしれない。


いずれ自分達も入らなければならないのなら、敬子には余計な心配をさせたくなかった。




次の日――


哲朗はしのぶ達が来る前に家を出た。


顔を見てしまえば、どうしたんだと言ってしまいそうな気がしたからだ。


しのぶが何も言わないのなら、自分でなんとかしようと思っているんだろう。


もう40歳を過ぎた娘に、親が口を出すことはない。


一人娘とはいえ、哲朗はただ溺愛するだけでなく、しっかりと自立するよう厳しく育てたつもりだった。


哲朗達が70歳になってしまえば、誰にも頼ることが出来なくなるからだ。

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