西澤さんと文子さん


時間は、過ぎていき、外は暗くなり始めていた。帰り支度を始める西澤。その状況を見つめる文子。


(・・・わがままは・・・嫌われるよね・・・)


“もう少しいて欲しい”その気持ちを自分の心の中で押し殺すのに必死なる文子。そんな文子の目の前で玄関に向かう西澤。文子は、そんな西澤の後ろを同じペースで歩く。やがて、冷たいドアにたどり着く。西澤は、鍵に手をかけ、開けようとしたその時、文子は西澤の背中にくっついた。


「文子さん?」
「少しだけ・・・こうしてていいですか?」


背中越しに聴こえる文子の声。西澤は驚きながらもその願いを受け入れた。
それから数分後、文子は静かに西澤から離れた。すると、西澤は文子のいる方向に身体を向きなおした。驚いた文子に西澤は「俺も・・・いい・・・ですか?」といって文子の頭に右手を回す。


文子の視界が暗くなると同時に、やわらかい感覚が唇を支配していった・・・
初めてのキス。たった数秒のことなのに、文子も西澤も数分の出来事のように感じていた。西澤が文子から静かに離れる。その視界に入ったのは、驚きながら口元を両手で覆っている文子の顔だった。


「じゃ・・・ま、また。」


慌てて家を飛び出していった西澤。突然の出来事過ぎて言葉が出ない文子だった・・・。


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