Over Line~君と出会うために
けれど。
思いがけずデビューのチャンスに恵まれて、それが上手く軌道に乗ってREAL MODEの知名度が高まるにつれて、彼女といられる時間は必然的に減って行った。自分の想いとは逆に、彼女との距離は加速的に離れて行った。そして、それはREAL MODEとしてもとても大事な時期で、貴樹には私生活を省みてどうにかする余裕はないも同然だった。
そして、彼女は出て行った。一言も言わず、手紙すら残さずに。
ツアーで地方に出かけて家に帰ると、部屋の中には誰もいなかった。数年間共に暮らして、築き上げてきたはずの彼女との居場所は、何もない寒々しい空間に変わっていた。
郵送されて来た、見覚えのある彼女の文字で宛名の書かれた封筒。そこに入っていた部屋の鍵。ただ、それだけのさよなら。
彼女のことが、好きだった。会えない時間があっても、それまでに積み重ねたものが何とかしてくれると、そう思っていた。それが間違っていることに気づいたのは、彼女が出て行って一人ぼっちになってからだったのだ。
後になって、共通の友人から彼女の言葉を聞いた。
彼女は、REAL MODEの貴樹には用はない、そう言っていたと。
歌っている貴樹が好きなのだと、だからよかったねと、デビューを喜んでくれた。最初はあまりうまく行かなかったけれど、ふとしたきっかけで売れたことを喜んでくれたのは、仕事が増えるたびにはしゃいでくれたのは、全てが嘘だったのかもしれないと思い知らされた。たとえ、その時には本当の気持ちだったのだとしても、冷めてしまえばそれだけの残酷な言葉を吐けるのだと、そう思ってしまった。そして、何も知らない友人の無責任な伝言は貴樹を追い詰めた。
怖い。
思い出せば今でも切なくなるあの日の想いは、この瞬間にも心の奥に残っているのだから。
思いがけずデビューのチャンスに恵まれて、それが上手く軌道に乗ってREAL MODEの知名度が高まるにつれて、彼女といられる時間は必然的に減って行った。自分の想いとは逆に、彼女との距離は加速的に離れて行った。そして、それはREAL MODEとしてもとても大事な時期で、貴樹には私生活を省みてどうにかする余裕はないも同然だった。
そして、彼女は出て行った。一言も言わず、手紙すら残さずに。
ツアーで地方に出かけて家に帰ると、部屋の中には誰もいなかった。数年間共に暮らして、築き上げてきたはずの彼女との居場所は、何もない寒々しい空間に変わっていた。
郵送されて来た、見覚えのある彼女の文字で宛名の書かれた封筒。そこに入っていた部屋の鍵。ただ、それだけのさよなら。
彼女のことが、好きだった。会えない時間があっても、それまでに積み重ねたものが何とかしてくれると、そう思っていた。それが間違っていることに気づいたのは、彼女が出て行って一人ぼっちになってからだったのだ。
後になって、共通の友人から彼女の言葉を聞いた。
彼女は、REAL MODEの貴樹には用はない、そう言っていたと。
歌っている貴樹が好きなのだと、だからよかったねと、デビューを喜んでくれた。最初はあまりうまく行かなかったけれど、ふとしたきっかけで売れたことを喜んでくれたのは、仕事が増えるたびにはしゃいでくれたのは、全てが嘘だったのかもしれないと思い知らされた。たとえ、その時には本当の気持ちだったのだとしても、冷めてしまえばそれだけの残酷な言葉を吐けるのだと、そう思ってしまった。そして、何も知らない友人の無責任な伝言は貴樹を追い詰めた。
怖い。
思い出せば今でも切なくなるあの日の想いは、この瞬間にも心の奥に残っているのだから。